第八章 嘘と決意
「あれ・・・・・?」
どうやら真佐海はいつの間にか自分でベッドに潜って眠ってしまったらしい。
外はもう朝日が昇っていた。
寝坊をしてしまったのだろうか。
いつも真佐海より遅く起きるはずの統馬の姿がない。
「統馬?もう起きてるの?」
まだ半分寝ている体を起こし、目を擦りながらリビングに行く。
統馬は険しい顔つきでソファーに座っていた。
「・・・・・・どうしたの?」
「今起きたところで悪いんだけど、話があるんだ」
そう言うなり立ち上がり、統馬は元、周助の部屋へ入り、中型のボストンバックを真佐海の前に少々乱暴に置いた。
「これ、どういう事ですか?」
そして真佐海の前に翳されたのは一枚の切符だった。
「昨日から真佐海さんの様子がおかしくて気になってたんだ。昨日はオレが先に寝たけど、
夜中になってもベッドに来ないからリビングに来たんだ。そしたら、真佐海さんがソフ
ァーで眠ってて、ベッドに連れて行こうとしたらこれを見つけた。真佐海さんの実家は
県外じゃないですよね。どういうつもりですか?」
それは、真佐海もうっすらと記憶に残っていた。
荷造りをしている最中、どうにも頭が痛くなり、荷物をしまわずにソファーに横になってしまったのだ。
「オレが嫌いになったんですか?」
俯き、黙っていた真佐海は、その言葉に驚き、反射的に顔を上げると、冷ややかに、けれども悲しそうな統馬の目を直視してしまった。
「そう・・・・・・なのか?」
統馬は怒鳴らなかった。
淡々と告げてはいるが、とても冷たい目をしている。
――真佐海の、一番見たくなかった統馬だった。
真佐海は頭を振り、そうではない事を伝える。
口で言おうにも、声が出ない。
今声を出せば、全てを言ってしまう。
薄汚く、貪欲な自分を。
「なら、これは何なんだよ。そんなにオレを怒らせたいのか!」
突然頭上から降ってきた怒鳴り声に、真佐海は思わず身を縮める。
統馬が真佐海の前で怒鳴ったのは初めてだった。
どうしてこんな考えが思いついたのかなど、真佐海自身にも解からなかった。
ただ、統馬の全てを望み、それを言葉に出せず、身動きが出来なくなっていた。
今でも可能な限りの時間を全て真佐海と過ごし、満たされているはずなのに、何かが足りない。
そんな女々しい自分を曝したら、統馬は離れていく。
それが解かっているからこそ、何も言えなかった。
今統馬が手にしている切符は、自分の気持ちを整理するための物ではない。
そんなのは自分に対するただの言い訳だ。
ただ統馬から離れる事しか、頭になかった。
真佐海自身がこれ以上傷つかないために考え出した結果だった。