「・・・・・・統馬?」
後片付けを終えて寝室を覗き、真佐海は統馬が完全に寝てしまった事を確かめた。
呼んでも反応のない事を再度確認すると、真佐海はもう一度リビングに戻り、元は周助の部屋だった場所から中型のボストンバックを取り出した。
その中には既に下着の代えや服が入っている。
真佐海はその服の間から、一枚の切符を取り出した。
それは実家に帰るための切符ではない。
行き先は明らかに県外だ。それも電車ではなく、飛行機の切符。
真佐海は統馬に嘘をついていた。
本当は明後日、実家に帰る予定はない。
日が経つにつれ、真佐海は統馬が怖くなっていた。
統馬自身ではなく、統馬の一途に真佐海を求めている事だ。
それが鬱陶しいとかではなく、やはり行き着く答えは統馬が突然なくなる事だった。
真佐海の目から涙が零れ落ちた。
もちろん大事にされているのは解かっている。
それでも不安で堪らない。
もし、周助のように別れを告げられたら。
自分に失望してしまったら。
そんな気持ちを整理するためにも、真佐海は店を千鶴に任せ、数日間一人で旅をする事にした。
実家に帰っていないと解れば、統馬は真佐海を探すだろう。
そして思いつく限りの場所を探すに決まっている。
だから、真佐海はもしばれたらその日から二日後に、統馬に居場所を教えてくれと千鶴に頼んでいる。
真佐海はこんな臆病な自分を、早く捨ててしまいたいと以前から思っていた。
それを決心させ、今回統馬の元から一時離れようと思ったのは周助の結婚をやめるという一言だった。
午前中、真佐海の携帯へかかって来た時には、もう既に裕美にも話した後だったらしい。裕美の方も、親は色々と言っているらしいが裕美自身はそれを承諾したようだ。
周助は受け入れてもらえるかどうかは解らないが、光の所に戻るのだと嬉しそうな声で、そう言っていた。
その声は、十年前、真佐海と暮らしていたときのような自由奔放な周助そのものだった。これが本当の周助だと真佐海はそう思った。
そして不思議とその時に胸が痛くならなかったのは、自分が思っていた以上に統馬を愛しているからだろう。
そう気づいたからこそ、真佐海は統馬と一時的に離れる事にした。