第七章 真海の過去
「お待たせしてすみませんでした」
待ち合わせの店に着いたのは良かったものの、店の駐車場は満杯で、近くのデパートの駐車場から走ってきた統馬は軽い息切れをしていた。
「待ち合わせの時間には間に合ってる。気にするな」
先に店に来ていた周助はコーヒーを飲んでいた。
そのカップの残りからすると、おそらく統馬よりも二十分は早く来ていたのだろう。
統馬に気づいたウェイターが統馬達の席までメニューを持ってきたが、統馬はそれを見もせず、コーヒーを頼み、数分後、それをウェイターが持ってくるまで、二人とも会話らしい会話はしなかった。
「ところで、相談とは?」
最初に口を開いたのは周助だった。
「大方、予想は着いていると思いますが、真佐海さんの事で」
「どうした?今のあいつの事は俺よりも君の方が詳しいと思うが・・・・・・」
どこか突っかかるような言い方をする周助を統馬は無視し、話を進めた。
「周助さんと付き合っていた頃からですか?真佐海さんが時々こう・・・・・・
不安というか、切なそうな表情をするのは。時々そういう表情するんですけど、
どうも心当たりがなくて」
周助はコーヒーを啜り、煙草に火を点けた。
統馬にも一本差し出したが、煙草が苦手な統馬はそれを断わった。
「なぜ真佐海の前の男が俺だという根拠がどこにあるんだ?」
「わかりますよ。二人とも、兄弟にしてはあまりにも、気を使いすぎてます。
他の客は気づいているかどうかわからないけど」
「・・・・・・ああ。俺と付き合ってた時からだ。俺も最初は理由がわからなかったよ。
だが・・・・・・俺たちは異母兄弟で、あいつの母親は病気で真佐海が幼い頃に亡くな
っている。本当は寂しかったんだろう。同年代の子供達は、母親の手作り弁当だとか持
ってきている時期に、真佐海は家政婦がいても実際は一人だったからな」
周助は灰皿にまだ半分ほどしか吸っていない煙草を揉み消し、また新しい煙草へ手を伸ばした。
「不安なんだよ。母親が死んで、次は俺が真佐海の前から姿を消した。信頼している人が
いなくなった時の事を考えてしまうからこそ、甘えられず、深入りもできない。真佐海
らしいと言えば真佐海らしいよな」
周助のこの一言で、統馬はやっと真佐海が解かった気がした。
そして、ここにいる場合じゃないと、財布からコーヒー代を出し、事を掴んだ。
「やっと解かりましたよ。時間割いてもらって、ありがとうございました」
軽く頭を下げて礼をし、統馬は席を立とうとしたその時、
「一つだけ、聞いてもいいか?」
周助が統馬の足を止めた。
「手紙の事でしょう?真佐海さん、ちゃんと読みましたよ」
「・・・・・・反応は?」
「泣いてました。でもおかげで吹っ切れたみたいです」
そう告げると、周助は安心したように小さくそうか、と呟き、少しだけ、頬を緩めた。