第七章  真佐海の過去

周助が引越しをしてから、既に二ヶ月が過ぎた。

 

結婚式も後二ヶ月に迫り、佐伯家は相当盛り上がっているらしく、一週間ほど前にも真佐海の元には洋子が結婚式の日に着て行く服を選んで欲しいと、嬉しそうな声で電話をしてきていた。

 

真佐海もまた、口にこそしていないが、統馬を好きだと再認識した事で、周助に未練はなくなり、純粋に祝福できそうだった。

 

だが、ここ数日、統馬が真佐海を見る限り、以前よりもあの表情をする事が多くなった。

 

そして、情事の時も以前は恥じらい、(真佐海の理性がなくなってしまった時は別として)中々自分からは求めてはこなかった。

 

しかし、ここ最近、真佐海は自分から誘ってくる。

統馬にとっては嬉しい事だが、その変化は統馬を不安にさせた。

 

真佐海が本当に自分から望んで誘っているなら、統馬は心配などしない。

だが、どう見ても真佐海は現実逃避――おそらく、不安から逃げているだけだった。

 

その原因を探ろうと、真佐海に遠まわしに尋ねても、真佐海はうまくはぐらかすだけで、統馬が望んでいるような返答は返ってこなかった。

それでも、やはり統馬は真佐海が心配で、最後の手段に出た。

 

「統馬、今日こそ飲みに行こうぜ」

大学の講義室を出た途端、統馬に話しかけてきたのは、高校からの付き合いの小田切昭だった。

どこで情報を得ているのか、統馬のバイトがない日は必ず誘ってくる。

今日も統馬のバイトがない事を知っているらしい。

 

「今日も無理。また今度、合コンじゃなければ行くよ」

 

「お前、最近付き合い悪いぞ。前は合コンの度に行ったくせに。ま、いいや。

 今度さ、ちょっと相談に乗ってくれよ。話したい事があるんだ」

 

最近付き合いの悪い統馬にこっそりそう言って、昭は次のターゲットを探しに講義室へと移っていった。

 

昭はいつも最初に統馬を誘ってくる。

飲みに行くと言うのはいわゆる合コンで、現在恋人がいる統馬は真佐海と付き合いだしてから一切行っていない。

 

真佐海にこれ以上心配はかけたくないし、今日は誘われても先約があるため、合コンでなくても断わるつもりだった。

 

「時間、ねぇな・・・・・・」

 

腕時計を覗くと、待ち合わせの時間まで残り三十分を切っていた。

統馬は焦りを押さえながらも階段を駆け下り、駐車場から車を出した。