第七章 真佐海の過去
店を出た統馬は、真佐海の店まで車を飛ばした。
信号や渋滞に、統馬は苛立ちを隠す事なく舌打ちをする。
それは渋滞に対してでもあったが、自分に対してもだった。
真佐海はただ、統馬がいなくなるのではと、不安で仕方がなかったのだ。
周助に未練があって落ち込んでいたのではない。
なぜそんな単純な事に気づかなかったのだろう、と自分自身に呆れたようにため息をつく。
そして昔とは全く変わってしまった自分に呆れ、思わず笑ってしまった。
以前の統馬は一人の女性につく事はなく、いつも複数の女性と関係していた。
その中でも、統馬が鬱陶しいと思う感情、つまり恋愛感情を抱く女は、統馬がそれに気づいた時点で切り捨てていた。
そしてその女性達は全てと言っていいほど、真佐海に似ていた。
高校生の時、真佐海を一目見て以来、ずっと真佐海の代わりになる女性を抱いていた。
真佐海に好意を抱き始めた頃、統馬は店で一目見るだけで十分だった。
だが、それが恋愛感情であると気づいた瞬間、一目見るだけでは足りなくなり、真佐海にキスをしたい、男とは思えないほどの細い体を抱きたいという、欲望が生まれた。
その想いを伝えようにも、やはり同性という壁を越える勇気が、高校生の統馬にはなかった。
そうして、統馬が躊躇っている間に、真佐海は喫茶店から姿を消した。
しかし、高校を卒業し、大学に入ると真佐海に会う機会は比べ物にならないほど増えた。
統馬が高校二年の頃に店に行った時には、辞めたと聞かされていた為、少なからず期待は抱いていたけれども、今も真佐海が勤めていると知って、今のアパートに越してきた訳ではなかった。
偶然真佐海と再会してから、統馬は今までの女遊びを辞めた。
真佐海以上に抱きたいと思う女性がいなくなり、眠らせていた恋愛感情に再び火が点いた。
自分の感情任せで真佐海に告白し、なんとか恋人まで昇格したものの、本当の真佐海は未だに解かっていなかった。
そして、真佐海の抱いている不安が何なのかを知るために不本意ながらも昔の恋人、周助に会ったのだった。
他人に頼ることが嫌いだった統馬のプライドを捻じ曲げてまで相手を守りたいと思うのは、真佐海だけだった。