第六章 手紙
『 真佐海へ
ここに、俺がこの間直接言えなかった事を書いている。
たぶん、お前を落ち込ませるような事ばかりだと思う。
それでも、できれば最後まで読んでほしい。
十年前、碌に話し合いもしないで出て行った事だが、あの時 の俺が思いつく限り、それしかなかった。
俺にはお前と二人で暮らす勇気も、親に言う勇気もなかった んだ。
だが、この間光に俺は自分の将来の事しか考えていないと言 われて気がついた。
自分の体裁のためだったと今なら素直に認める。
けれど、お前の事は本当に、好きだった。
何度も家に帰る度に謝ろうと思っても出来なかった。
やり直そうと言おうとも思った。
でも、その時にはすでにお前は千鶴と付き合っていたから、 それでいいと思ったんだ。
光と付き合い始めたのはその直後だ。
やっとお前の事も落ち着いて考えられるようになってからだ った。
光とは約八年、ずっと一緒に住んでいたけれど、俺は会社の ために、結婚を決めた。
俺は光と別れる気は少しもなかったけど、あれから光と話を させてもらえない。
このまま別れる羽目になるのだろう。
やはり自分が可愛いだけなんだろうな。自分でも呆れている よ。
たぶん、俺はまた後悔すると思う。
同じ失敗はしたくないけど、おそらく俺は裕美と結婚する。
光にも、お前にも、悪い事をしたと思っている。
謝ってすむ事でないという事も解かっている。
俺が言える義理じゃないが、統馬君なら、真佐海を裏切らな い。
俺と違って、誠実な男だから。
最後に、もし俺が結婚を決意して、六月に結婚式を挙げる事 になったら、統馬君と一緒に来てくれたら嬉しい。
周助』
「・・・・・・真佐海さん?」
手紙を握り締めたままの真佐海を覗き込むと、統馬が予想していた通り、真佐海の頬には涙が流れていた。
「何が書いてあったのか知らないけど、これは周助さんなりの けじめだと思うんだ。だから・・・・・・」
言葉を濁して、最後まで言わない統馬は、先の言葉が見つからなかった。
どれを言っても曖昧で、逆に真佐海を傷つけるような気がした。
「統馬・・・・・・しよう」
ふわりと抱きついてきた真佐海の言葉が何をさしているのか、統馬にはわからなかった。
「セックス。全部忘れたい。今だけでもいいから・・・・・・」
全てを忘れてしまいたかった。
今すぐ統馬が欲しいと思った。
「でも・・・・・・体、大丈夫?昨日の今日だし・・・・・」
「大丈夫だから。早くしよう」
そう言って、自らキスをしてきた真佐海は、いつもの真佐海ではなかった。
それを承知して、統馬は真佐海を抱いた。