第四章 愛してくれる人
真佐海の体は、昔から考えすぎたり、極度にストレスを感じたりすると発熱する体質だった。
今回はおそらく周助の結婚の件が原因だろう。
周助が出て行った時点で既に真佐海は諦めがついていたが、恋心なんて『忘れよう』と思っても実行できるものではなかった。
少なくとも六年は殆ど周助への感情は薄らいでいたが、怪我をして一緒に住むようになってからはまたぶり返したように思い出して仕方がなかった。
まして、その相手と同居している環境にある中では、それが実行できるまで何年かかるだろうと途方に暮れていた。
周助を未だに好きでいる事と、それを気づかれないように隠しながら同居している事に真佐海は疲れきっていた。
半年ほど前までは何度も好きにならなければ、と後悔をした事もある。
しかし、今は統馬の存在で、周助に対する執着が薄らいでいた。
そしてその執着は少しずつ統馬へと向けられていた。
統馬の態度で、恋愛の意味で好意を抱いているという事を真佐海は知っていた。
だが、また周助のように完全に溺れてしまってから別れて、自分の前から消えてしまうのが怖くて、これ以上本気にならないように自分に歯止めをかけていた。
まして、相手は四歳も年下の、まだ二十一の学生だ。
けれど、千鶴に言われた事を思い出すと、真佐海はやはり自分は統馬に恋をしているのだと実感させられてしまう。
「お粥持ってきました」
小さく遠慮がちにノックされたドアが開く。
統馬の右手には、まだ湯気が立ち上る茶碗を乗せたトレイがあった。
「食欲ないかもしれませんけど、少しは食べてください」
見た目はお世辞にも良いとは言えないが、その味はとても美味しいものだった。
「料理できるんじゃない。これなんて俺が作ったのより美味しいと思う」
「オレ、長男で両親も共働きだったから、弟が熱出した 時によく作ってやってたんです。そうしたらいつの間 にかお粥とか子供が好きそうな物は得意になってて。 見た目は雑ですけどね」
蓮華代わりのスプーンで、まだ熱いお粥を口に運んでいく。
食欲は無かった筈なのに、どこか懐かしい味が、何も受け付けなかった体に浸透していった。