簡単な診察の後、昨晩から何も口にしていなかった真佐海は点滴を受けていた。
統馬は車で待っていると言ったが、その十分後には結局真佐海が気になり、真佐海が点滴を受けている部屋に覗きに行ったところを、通りがかった看護婦に中で待っているように言われてしまったらしい。
「真佐海さん、彼女いたんですね」
眉間に皺を寄せていた統馬の表情は今でもあまり変わっていない。
真佐海は、なぜ自分が熱を出したくらいで統馬の機嫌が悪くなるのか、全く検討かつかなかった。
「周助が言ってた事?あれ、嘘だよ」
「どういう意味・・・・・・?」
「そのまま。ここじゃ詳しく話せないけどさ、気になるようだったら家に帰ったら教えてあげるよ」
先ほどのように声が出るようにはなり、口調は滑らかだが、頬は赤く上気している。
その上、瞳は今にも閉じそうだ。
「少し、眠ったらいいですよ」
短い沈黙の間にもウトウトと眠りかけていた真佐海にそう言って部屋を出ようとした統馬を、急に真佐海が引きとめた。
「喉渇いたでしょう。何か飲み物買ってくるだけですから、す ぐ来ますよ」
真佐海は仕草でいらないと伝え、傍にいてくれと小さく呟いた。
「わかりました、ここにいます」
けれど、統馬のその言葉は聞こえていなかったらしい。
真佐海は静かに寝息を立てていた。
時々、額の汗をタオルで拭き取っていた統馬は、真佐海の点滴が終わりそうだと通りがかった看護婦に伝えると、すぐに細い腕から針を抜いてくれた。
その後、真佐海の代わりに受付で会計を済ませ、足元の覚束ない真佐海を抱えて車の助手席に乗せる。
「周助さんはしばらく仕事で忙しいそうなんで、その・・・・・・心 配なんで、看病していてもいいですか?」
「どうせ俺、動けないから、そうしてくれるとありがたいけど・・・・・・統馬に迷惑かかるから・・・・・・」
カラカラと、先ほど統馬がファーストフード店で買ってきてくれたスポーツドリンクの小さな氷を口で砕く。
「オレがそうしたいって言ったらさせてくれますか?」
もう何も考えるだけの力が残っていなかった真佐海は、その申し出に素直に頷いた。
その時の統馬の機嫌は、もうすっかり治っていた。
第四章 愛してくれる人