第四章 愛してくれる人
真佐海の目が覚めると携帯のデジタル時計は午前十時をとっくに過ぎていた。
完全に寝坊だ。
しかし、起きようと思っても体の節々が痛く、立つと目眩がする。
体がだるかったのはおそらく風邪だろうと思っていたが、ここまで悪化するとは考えていなかった。
「今日は仕事にならないや・・・・・」
だるい体を引きずってリビングに行き、風邪薬を飲む。
丁度ベッドに潜ってからインターホンが何度か鳴ったが、それを無視して真佐海は眠ってしまった。
その数分後、ガタガタと何かを探るような音で、真佐海は再び目を覚ました。
朦朧としている意識で周助が帰ってきたのだろうか、と起き上がると、開け放たれたドアから顔を出したのは周助ではなく、統馬だった。
「起きました?」
「統馬・・・・・・?」
「たぶん、前にそこのコンビニでバイトしてるって言ったのを 覚えていたんでしょうね。朝、周助さんがバイト先まで来た んですよ。真佐海さんと連絡取れないから見に行ってくれ、 本当は自分が行けばいいんだろうけど、仕事が溜まってるか ら行けないって。その時預かった鍵で勝手に入りました。す みません」
ありがとう、と掠れた声で言い、手招きでドアの前に立っている統馬を近くに呼ぶ。
「これで熱測ってください。さっき他の人たちも見えて、いろ いろ差し入れ持ってきてくれたけど、食べます?」
いらない、と小さく首を横に振ると、丁度ピピッと電子音を上げた。
「三十九度って・・・・・・昨日よく働けましたね」
体温計を見た統馬の表情はみるみる変わった。
「昨日の午前は平気だったんだ。少し寒気がするくらいで・ ・・・・・」
「病院、行きますよ」
上にかけられていた布団を剥ぎ取られ、真佐海は返答する間もなく統馬に抱きかかえられてしまった。
抵抗しようとしたが、体に力が入らずに黙っていると、逆にその腕が妙に居心地よくて、真佐海は抵抗するのも忘れて体を預けてしまった。
どうして、ただの行きつけの店で会うだけの自分にここまでしてくれるのだろう。
そしてこの人が恋人だったらいいのに、と思ってしまった。
もう二度と恋などしないと決めたのに、気持ちが揺らいでしまっている。
でも、それだけ統馬の腕の中は気持ちが良かった。