第三章  十年の月日

一人になり、ようやく気が緩んだのか、一粒の涙が真佐海の頬を伝った。

それを袖で拭うが、一度溢れ出した涙は止まらず、ソファーに蹲り、声を殺して泣いた。


元から叶うはずのない恋だからと、十年前に諦めた筈だった。

それでも周助が好きで、しばらくはとても彼女なんて作る気がしなかった。


高校の時、女性とセックスをした事がある。だが、終わった後の罪悪感が溜まらなくて一度きりでやめてしまった。

男性とも付き合った事はあったが、思い出すのは周助の事ばかりでキスが精一杯だった。


周助は普段は家に帰ってこなかったが、正月には欠かさず帰り、その度に普通の兄弟のような接し方で、口うるさく彼女はできたのか、と聞くものだから、女友達の中で一番親しかった千鶴に相談したのだ。

千鶴は同性愛に偏見を持っていない事を知っていたし、真佐海が周助を好きだという事は、話す前から気づいていたようだった。

そこで千鶴に再度真佐海と周助の関係を全部話した上で、周助や周りの人たちに真佐海は千鶴と付き合っているという事にしていた。

それを言い出したのは真佐海ではなく千鶴だった。   

以前はなぜそこまで自分に協力してくれるのかわからなくて気がかりだったが、やっとそれが解けた。


そしてこんなにも弱い自分が情けなくなった。

気がつくといつも泣いてばかりだと思う。

正直、もう一緒に暮らすのは限界だった。

微かな期待を抱いてもそれは叶わないし、もう一人で過ごすのは嫌だった。

一度人の温もりを知った体は、もう一度それを求めている。

誰かに傍にいて欲しかった。

体だけでなく、心も預けられるような相手に。