第三章  十年の月日

「結婚・・・・・・か」

皿を片付けながらぽつりと呟いてみる。 

子供好きで、面倒見のいい周助の事だから、きっと良い夫であり、そのうち生まれてくる子供の父親になってもそれは変わらないだろう。

そして、まだ二十三だという裕美も育ちも良く、とても朗らかな女性だ。

そんな二人が結婚をして、家庭を持ったらきっと理想だと言われているような家庭ができるだろう。

但し、そこに愛があれば、の話だ。

もし愛がないのだとしたら、周助はもちろん、裕美も、幸せな人生を送ることはできない。

周助には、そんな生き方をして欲しくなかった。

今の周助を見ていると、無理に結婚を決めたように思えて真佐海は祝福できない。

そこには自分の未練もあるかもしれないが・・・・・・

「もう未練なんてない筈なのにな・・・・・・」

真佐海は大きくため息をつき、傍に置いていた丸椅子に座り込んだ。





「どうするかな・・・・・・」

居心地が悪くて出てきてしまった統馬は、街中を当てもなく、ただ歩いていた。

電車に乗って、喫茶店で暇つぶしをしても時間は二時時間しか経っていない。

 

本当は真佐海を周助と二人で店に残すのは気がかりだった。

真佐海は周助を兄だと言っていたが、突然結婚をすると言われて混乱している筈だ。

だけど、部外者の自分があの場所にいるのはどうも居心地が悪く、周助の気遣いもあって出てきてしまった事を、統馬は今更ながら後悔した。

「CDでも見ていくか」

ふと先を見ると、今、一番人気のあるアーティストが新譜を発売したのか、店の前に大きくポスターが貼られていた。

店に入り、何気なく視聴機を回したが、統馬は一分ほど聞くとすぐにヘッドホンを置いた。

普段と変わらない街並みを歩きながら、統馬は真佐海が弱っている所に付け込んでいいのか、迷っていた。

本当は強引にでも真佐海を手に入れてしまいたかった。

けれど、真佐海を傷つけては意味が無い。

真佐海には笑顔を絶やさないでほしい。

矛盾をしているが、それができるなら、自分は真佐海の『一番』でなくてもよかった。

それが、ただの常連客のままでも。