週明け、真佐海はストレスで熱を出した。

あまりストレスを溜め込みすぎると、熱を出してしまう真佐海の体質は、長年母親代わりをしていた洋子も知っているようで、洋子は『あまり頑張り過ぎないように』と真佐海に忠告するだけだった。

原因は、当然、週末も周助の態度は変わる事なく、当然土曜日の約束もなかったものとして扱われた事。

そしてもう一つは、学校に行けば雅也と顔を会わせなければならないという事からだろう。

熱は微熱程度のものだったが、体はだるく、ほぼ毎晩泣きはらした為に、目は真っ赤に腫れている。

ストレス性と解っていても心配をした洋子は、風邪薬を持ってきてくれた。

それは、しばらく寝不足気味だった真佐海をゆっくりと眠りへと引き込んでくれた。



熱を出して寝ている、と洋子から聞いた周助は、洋子の前では見せなかったものの、かなり動揺をしていた。

ストレスを急激に感じても、なかなか表に出さずに溜め込んでしまう真佐海の性格を知っている周助は、そのストレスの原因が少なからず自分であるという事で、責任を感じていた。

謝ってすむような事ではない。

だが、周助は、元の関係に戻るという選択肢を自分に与えなかった。

それが真佐海のためになると何度も自分に言い聞かせ、最後の決断をした。


自室で荷物の最終確認をし、周助はそっと真佐海の部屋のドアを開ける。

頬を少し赤く染めている真佐海は、風邪薬のおかげか、静かに寝息を立てながら眠っていた。   

そのベッドの横に座り、一瞬躊躇ったものの、静かに唇を重ねる。

起こさないように、触れたか触れないか自分でも解からない程度に。

「・・・・・・ごめん、真佐海。・・・・・・・愛してた」

過去形なのは自分にそう言い聞かせるため。

自分も、真佐海もこのまま関係を続けて、今よりもっと別れ辛くなる前に、別れた方がいい。そして次の恋愛に進めるように。

そう、もう一度自分に言い聞かせ、音を立てないようにそっとドアを閉めた。

その背中は、一度も振り返らなかった。



熱も下がり、なんとか起きる気になった真佐海が夕食を取りに下へ降りると、周助の姿がなかった。

ここ暫くの癖で、家でも周助の姿を目で捜してしまう。洋子はそんな真佐海に、

「今日から一人暮らしをするって出て行ったわ」

と一言だけ告げた

「・・・・・・そう」

また、目頭が熱くなった。

でも、もう泣かないと決めた。

どのみち仲を修復する事は不可能だと、別れを告げられた日から諦めていた。

「寂しくなるわね」

「・・・・・・うん」

洋子は必死に寂しさを堪えている真佐海を気遣い、それ以上何も言わなかった。

真佐海は、特に話し合いもしないまま、一方的に別れを告げられ、全く終わっていないと何処かで考えている自分がいる事を、知っていた。

それでも、この方がよかったのだと、自分を騙し、周助への想いを早く断ち切ろうと決心した。

第二章  波乱の幕開け