思い切って雅也に周助との事を話したのは三カ月前。
丁度、武と洋子が再婚したときだった。その一ヶ月ほど前から真佐海たちは付き合っていたのだが、同性愛なんて普通に言える事ではなかったので、一ヶ月もの間、言うのを躊躇っていた。
実際、雅也にそれを告げたときは、水臭い奴だとか、オレは同性愛なんか気にしない、と散々言われてしまったが。
「本当、鋭いよね」
「五年も一緒にいればわかる。オレでよければ愚痴でも惚気で も聞くよ」
一瞬、真佐海は考え込んだ。
いくら親友といっても、他人に話していいのだろうかと。
だが、その考えはすぐに砕けた。
話してすっきりしてしまいたい。
雅也ならおそらく誰にも言わないだろうし、今真佐海が最も信用できる相手だ。
五年間一緒に過ごしてきて、それに確信が持てる。
「俺たち・・・・・・さ、腹違いの兄弟だったんだ。周助は大学に合 格したとき、もうアパート借りてて、一人暮らしする予定 だったんだ。週末とかは俺を呼ぶみたいだったし。でも、 腹違いの兄弟っていうのが、わかったら、付き合っていられ る自身がないって・・・・・・・」
目の奥から熱いものが零れそうになるのを、下唇を噛んで必死で堪えていた。
昔はこんなに涙腺が緩くなかったのに、たった半年かそこらで周助に変えられえしまった。自分を制御しているつもりでも、今あらためて振り返ると変えられた部分がかなり多い。
「本気で好きなら腹違いの兄弟でも、別れるなんてさ、そんな 事、しないだろ。少なくてもオレならそんな逃げるような
真似しない」
二人の間に沈黙が流れた。
真佐海は思っていた返答と違い、どう答えて言いか解からずに雅也から目を逸らす。
そして不意に俯いていた顔を上げた瞬間、雅也が真佐海の唇に自分の唇を重ねた。
周助とは違う、不慣れで野生的なキスを真佐海は乱暴だと感じた。
「やめろっ・・・・・・・!」
嫌悪感に耐え切れず、思い切り雅也の頬を打ってしまった。
「ごめん・・・・・・でもオレお前が好きだ。真佐海の前では周助さ
んと付き合ってるお前を応援してたけど、本当はどうやっ
たらお前を奪えるか、奪えるはずもないのに、ずっと そ ればっかり考えてたんだ。ずっと・・・・・・」
真佐海は絶句した。
親友だと思っていた男に無理やりキスをされ、挙句に告白。
真佐海は直感でやばい、と感じ、逃げようとドアの方に後退さった。
「雅也君、ここにいたんだ」
あと数歩でドアまでたどり着けるというところで真佐海の後ろから声がした。
その聞き慣れた声に、真佐海は更に危機感を増した。
「内海先輩。どうしてこんなところに?」
「やっぱり忘れてたか。今日は送別会だから、お前の授業が終 わったら迎えに行くって言っただろ?それなのに中等部の 教室までわざわざ君を探しに行ったらいないし」
入ってきたのは、周助の親友であり、雅也の部活の先輩である内海光(うつみひかる)だった。
しかし、今の真佐海にはそんな事どうでもよかった。
「俺、帰る」
慌てて掴んだ荷物を持ち直し、真佐海は保健室を走り去った。
その後、二人の会話がいくつか聞こえてきたが、そんなものは真佐海の耳を通り過ぎて言った。
第二章 波乱の幕開け