第二章 波乱の幕開け
夕食を緊迫した空気に包まれ、殆ど会話のないまま終えると、真佐海は先に部屋に入ってしまった周助の部屋へと足を踏み入れた。
部屋に周助の姿はなく、見渡すとベランダの扉が少しだけ開いており、周助はそこで煙草を吹かしていた。
両親の前でこそ吸わないが、苛立った時にはいつもベランダで吸う。今ではもう癖になってしまっていた。
「風邪、引くよ?」
真佐海がそっと声をかけても、周助は真佐海を見もせず、煙草を吹かし続けた。
「今度の土曜日な、お前を俺のアパートに連れて行くつもりだった」
携帯灰皿で煙草をもみ消し、ベランダの手すりに寄りかかるようにして周助は真佐海の方へ向き直った。
「――どういう事?」
「一人暮らしを始めて、週末とか長期休暇とかにお前を泊めるつもりだった。でも、腹違
いとは本当に考えてもいなかったよ」
冷たい風が二人の頬に当たる。それでも二人は動かなかった。
「俺たち・・・・・・まだ付き合っていられる?」
絶望的な声だった。か弱くて、思わず守ってやりたくなるような。
暗くて見えはしないが、おそらく目じりには涙を溜めている。
「・・・・・・俺もな、少し混乱してるんだ。だけど、俺は、これ以上お前と付き合って
いける自信がない」
周助は自分が真佐海と現実から逃げる事になるというのも、真佐海に恨まれるだろうという事も、そして傷つけた事を承知していた。
真佐海を愛する事は出来ても、万が一、周囲にこの関係が知られてしまい、批難される事になったら、真佐海が後ろ指を差され、傷つく日がいずれ訪れる。
それを、自分自身の力で守っていけるか、周助は自信がなかった。
なら、いっそまだ付き合って日の浅いうちに別れてしまおう、そして真佐海の前から姿を消そうと思ったのだ。
「解かってくれ」
必死で涙を見せまいとしている真佐海をそっと抱きしめた。
真佐海は嫌だと頭を振っていたが、やがてそれも止めてしまった。
「これが、最後だ」
真佐海の顎を上に向かせ、唇を重ねた。
今までのように浅く触れるだけのものではなく、抱く時のように貪る様に激しいものだった。
「部屋に戻れ。そうしたら、普通の兄弟に戻るんだ。キスもしないし、必要以上にお前の
体にも触れない」
いいな、と有無を言わせないような口調で言われ、真佐海は泣きながら頷く事しかできなかった。