第二章 波乱の幕開け
リビングに入ると、即にテーブルには夕食の準備がされており、武はテレビを見ながら酒を飲んでいた。
「あれ?父さん、今日はずいぶん早いね」
武は会社を経営していて何かと忙しく、夕食を一緒に囲むというのは、久しぶりの事だった。
「今日はお前たちに話があってな。仕事を早めに切り上げてきた」
二人に席へ着くように施すと、洋子と並んで座った武は顔を見合わせ、暫く黙り込んだ末に重い口を開いた。
「真佐海の進級試験が終わるまで、これは洋子と黙っておこうと決めていた事なんだが・・・・・・これを見てくれ」
そう言って、差し出したのは二冊の母子手帳だった。
もちろん、周助と真佐海のものだ。
武の意図が解からないまま、周助は自分の母子手帳をパラパラとめくる。
そして、この機会に、自分の本当の父の名前を確かめようと思った。
昔、一度だけ父の事を洋子に尋ねた事があった。
その時はうまくはぐらかされてしまったが、幼かった周助は、その時の洋子の様子から、あまり詮索してはいけないのだと、子供ながらに悟った。
もう少しで成人するという年になるのに、洋子は今もその事を教えてくれない。
また、洋子に聞こうと思っても、今更だという気もしていた。
そして、ついにそのページを見つけた途端、周助は驚きで声が出なくなった。
そこに記されていた二人の名前を、周助は知っていた。
一人はもちろん、洋子の名前だったが、父親の名前は、目の前にいる武だった。
インクも色褪せていて、それが今書いたものではないという事実は一目瞭然だった。
「お前の父親は・・・・・・私だ。今まで黙っていてすまなかった」
そう言って、武は深々と頭を下げた。
「私たちは元々付き合っていたんだけど、武さんのご両親がすごく反対して、別れたの。けど、その時は周助がお腹の中にいると思わなくて・・・・・・」
「俺たちは血が繋がっているって事・・・・・・?」
周助の代わりに、消えそうなほど小さい声で言ったのは真佐海だった。
「真佐海、お前は紗代との子だ。だから二人は腹違いの兄弟という事になる」
武は平静を保ちながら、それでも今まで黙っていた事を詫びる様に告げ、隣に座っていた洋子は二人の顔色を恐る恐る伺っていた。
真佐海は思ってもいなかった事実に何も言えず、ただ下を向き、息苦しさを少しでも紛らわすために手を強く握っていた。
周助はというと、両親の前で内心の焦りと不安、そして今後の真佐海との関係を考えるので精一杯だった。