第二章  波乱の幕開け

「まだ母さんの事、名前でしか呼べないか?」

 

三ヶ月前に真佐海の父は自分の従姉妹で、周助の母だった洋子と再婚した。

幼い頃に真佐海の母が病死して以来、自分の息子の様に接してくれた洋子を、真佐海は『洋子さん』と呼んでいた為か、今更『母さん』と呼ぶには何だか気恥ずかしくて、未だにそう呼べないでいる。

 

「洋子さんは今まで通りで良いって言っていたからつい・・・・・・」

 

すまなそうに項垂れる真佐海の柔らかい髪を、周助は安心させるように鋤いてやる。

 

「仕方ないか。俺もまだ叔父さんの事、父さんって呼ぶのには抵抗あるし」

 

今度は啄ばむ様なキスをする。小さな音を残して唇が離れた。

 

「駄目だよ」

 

ワイシャツのボタンに手かけた周助にやんわりと、真佐海は静止の言葉をかける。

 

「少しだけ」

 

ボタンを全部外し、脇腹をなぞられ、小さく体を震わせた。

擽ったそうに身を捩り、真佐海は周助に止めるように施した。

 

「でもっ・・・・・・」

 

たまにこうして真佐海の体に触れてくる周助だが、この微妙な愛撫に真佐海は慣れる事が出来ない。

行為が始まり、一度快楽を与えられればすぐに理性を捨ててしまう自分を、真佐海は知っていた。

 

そして後で思い切り後悔する事も。

 

「嫌か?」

 

真佐海自身、どうしたらいいのか解らず、床に視線を落とす。

 

「無理強いする気はないからさ・・・・・・本当に嫌だったらそう言っていいから。

 真佐海が家でする事に抵抗感じてるのも解かってるけど、たまに悪戯したくなるんだ」

 

乱れたワイシャツのボタンをかけ直し、簡単に服装を整えてやる。

その間のなんとも説明のし難い雰囲気が真佐海は苦手で、周助に対する罪悪感で胸が締め付けられるように痛くなった。

 

「ごめんね」

 

再び項垂れた真佐海の頭を軽く小突き、キッチンにいる両親が見えるまで周助は真佐海の手を握っていた。