第二章 波乱の幕開け
ふと顔を上げると、目の前には美しい夕日が広がっていた。
今まで何度も夕日を見たが、こんなにも綺麗な夕日を見た事がなかった真佐海は、小さく感嘆のため息をついた。
「どうした?」
問題集を解いていた筈の手が止まった事に気づいた周助は、真佐海の視線の先へと目を向けた。
「この部屋、夕日見られたんだね」
周助の部屋は、丁度夕日が見える西側にある。
だが、今まで、周助は部活があり、夕方のこの時間に家にいる事は滅多になく、また真佐海も一人ではこの部屋へ入る事はなかった。
無邪気に微笑み、うっとりと夕日を見続ける真佐海と一緒に、周助も暫くその夕日に見入っていた。
「周助、今週末は何処に行く?」
沈みかけていた夕日が見えなくなると、今まで夕日に見入っていた真佐海が声をかけた。
別に何処か遠出するわけでもないが、週末、二人で買い物に行くだけでも、真佐海はとても楽しみにしていた。
「良い所に連れて行ってやるよ。きっとお前も気に入る」
真佐海は何処だろう、と一生懸命に考えていた。
宿題をしていた今よりも、真剣な表情をしている真佐海に手招きをして隣へと呼び寄せる。
「下に洋子さんいるよ」
大丈夫、と言いながら顔を近づけていき、周助は唇を重ねた。
二人が付き合い始めてもうすぐ四ヶ月を迎える。
しかし、まだ真佐海はキスやセックスに恐怖に似た感情を抱いていた。
真佐海自身、周助は兄としてではなく、恋人として好きだし、周助も真佐海を弟として見ていない事を知っている。
それでも真佐海は、まだ夢を見ているかのように思い、実感がなかった。
そしていつか手放される時の事を考えると、これ以上好きになりたくないという気持ちもあった。
周助が真佐海を手放すはずがないとどこかで解かっていても、不安は消えない。
それはおそらく、小さい頃に母を亡くした事が自分をそうさせているのかもしれないと、真佐海自身薄々感じていた。