第二章   波乱の幕開け

「ここが俺のアパートだ」

光達が待ち合わせたファミリーレストランのすぐ傍のアパートの前で周助は光に言った。

「家賃いくら?」

「七万ちょっとだから半額以上用意しておけば大体全部払える。大丈夫か?」

少し考え込んでから光は頷く。

金もなく、ただ一人暮らしを考えていた光にとって、それはものすごく好条件だった。

「俺は今日から住む予定だ。まだ荷物は全然片付いてないけどな」

「オレも荷物まとめられ次第、すぐ出てこられるよ。どうせ必要なものなんて そうないんだしさ」

部屋の中はダンボールだらけだった。

どう整理したらこんなにいろんな物が出てくるのだろう、と光は思いながら部屋を見渡す。

開いている段ボールを少し覗くと、そこには真佐海の写真があって、光はどうにもいたたまれない気持ちになった。

「大家さんに言っておく。それから一つ言い忘れてたんだけど、部屋が一つし かないんだ。だから二人でそこ使わないか?」

「お前さ、それ早く言えって。それより、さっきのオレの言葉聴いてなかった ?」

「襲うってやつ?あれ冗談だろ」

本気で冗談だと思い込んでいる周助に、今更自信がないと言い切れず、光は訂正できなかった。

「同じ部屋に寝る事にはなるけど、お前が気になるって言うなら、ここの真ん 中にでかい箪笥でも本棚でも机でも置いて、半分に分ければいいだろ?」

それでも気になるものは気になるが、仕方ないか、と光は頷いた。

「決まりだな。じゃあ、飯でも食いにいくか」

空はまだ暗くなっていなかったから気づかなかったが、時計を見ると、夕飯時だった。

「もうそんな時間か」

「どこに食いに行く?」

ダンボールで一杯の玄関で靴を履きながら尋ねる周助に、いや、と光は声をかけた。

「悪いけど、今日は一緒に行けない。母さんに周助と一緒に暮らす事を言って 、荷物まとめなきゃ」

「・・・・・・そうか。それもそうだな」

残念そうな顔をする周助に悪いと思ったが、できるだけ早くあの息苦しい家を出て行ってしまいたかった。

「思ったより沈んでなくて安心したよ」

じゃあね、と声をかけ、二人はアパートの入り口で別れた。

少し進んで振り返ると、それに気づいた周助が手を振ってくれた。

それに振り返して、また家へと歩みを進める。

息苦しい家に帰るのが嫌で、足取りが重かったいつもとは全く違い、今日は少しだけ軽く思えた。