記憶

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「優希にクリスマスプレゼント」
渋滞で車が停まっている間に、コートのポケットから綺麗にラッピングされたアクセサリーケースを取り出した。

「これ・・・即日完売したはずじゃ・・・」

ケースの中には、一度だけ雑誌を見ていいなと口に出したシルバーのバングルだった。あまりにも人気がありすぎて、今では生産が追いつかない程だ。

「ありがとう」

恭介は、さっそく腕にはめるオレの様子を見て嬉しそうに微笑んだ。

「何処か行きたいところある?」

「特にないけど・・・こっちはマンションの方じゃないよね?どこにいくの?」
「内緒」
 
そういうと、
坂を下り、右側にブランドショップの看板が見えてきた。
その左側のホテルへ続く坂を上り、玄関に車を止めた。

 
人で込み合っているホテルのロビーを抜け、満杯のエレベーターに乗り込み、何とか部屋までたどり着く。


「ごめんね、恭介。オレ、何もプレゼント用意してない・・・」

ベッドの上に腰掛けていると、抱き付いてきた恭介に謝りを入れた。

「優希が戻ってきたからそれでいいよ」
他に何もいらない、とつけたし、首筋に胸元にある赤い跡と同じものを付けられる。
そのままするのかと思っていたら、恭介は体を離した。

「さ、予約しているから向かいのホテルまで夕食に行こう」
「このホテルで食べるんじゃないの?」
「ここのレストランはどこも一杯で向うしか予約出来なかったんだ」

エレベーターを降り、車で上ってきた坂を下り、そのホテルの回転ドアを潜る。
 

中は温かいイメージの茶色いカーペットが敷かれ、天井には大きなシャンデリア。どこか古い西洋の館のようだ。

高価なドレスを身に纏った女性たちが、同じエレベータに乗っている中、オレは恭介に言われたとおりさっきまで着ていたジーンズとトレーナーではなく、クリーム色のセーターと黒の皮製のズボンに着替えてよかったな、と思う。そうじゃないと、この場所には吊り合わない。
そんなことを考えている間にも、その女性達に見えないように、微かにだが、お互いの手を握っていた。

エレベーターが開くと、レストランが何軒もある中、迷いもせずに一軒のフランス料理店に入った。

恭介が名前を告げると、ボーイに『予約席』と札が置かれた席へと案内させられる。

店内はアンイェィーク家具で統一され、クリスマスムードで溢れる雰囲気とクラッシックが静かに流れる暖かな感じの店だ。
ガラス張りの壁に、夜の街並みが映っている。

オレはその景色にも、恭介の準備のよさにも圧倒されるばかりだった。

「どう?気に入ってもらえた?」

メニューに載っているコースとワインを頼み、ボーイが去っていくのを見計らってオレに言う。

「もちろん!」

うれしくて自然に顔が笑んでしまう。
「あ・・・ごめん、ちょっと出てくる」

席を立ち、壁際で誰かを待っているような感じのする中年男に声をかけた。
どこかで見た人で、もしかしたら知り合いかな、と思って記憶をめぐらせる。
その間に、恭介は席に戻ってきた。


「あの斜め後の席の人って確かオレが入院してた病院の院長だよね?」

なんとか思い出したものの、まだ確信がなく、疑問形になってしまう。

「その病院の院長で俺の親父。実はここも親父が予約してくれたんだ」

苦笑いし、今度はオレの後ろの席に座っている人たちを見るように促す。

「それと、優希の後ろに座ってる奴は俺の弟」
「・・・どういう事?」

恭介の父親と弟もこのレストランにいて・・・?
何の為に?
いや、クリスマスだから何の為って言うのも変だけど・・・


「親父が昨日電話で優希を連れて来いって言っててさ」


メインデッシュを食べながら、静かな音楽がかかっている中、話を進める。


「心配しなくてもいいよ。親父も文也も同類だから」


ほら、と恭介が目を向けた先には、恭介の父親と弟が同性と友達という雰囲気ではなく、普通の恋人といるように楽しそうに食事をしている。


「はじめから言ってくれればよかったのに」

「ごめん、親父に黙ってろって言われてさ」

チラッと恭介の父親のほうを見ると、オレの視線に気づいたのか、軽く会釈をされた。
直接院長には会ったことがなかったけど、人のよさそうな人でよかった、と思って、思わず頷いてしまった。

恭介と他愛ない話をしながらデザートまで食べ終え、会計を済ますと恭介に客室へと連れて行かれた。