記憶

ついた先は新宿。

外は雪が降っているせいで薄暗い。
なのにクリスマスイブという特別な日だからか、カップルが多い。

オレ達はレストランで昼食を済ませ、デパートの家具売り場にいた。

「何か欲しい家具でもあるの?」

アンティーク家具を見ながら恭介に尋ねる。

「新しいベッドとクローゼット」

「今ので十分でしょ?」

呆れた様に言うオレに、恭介は違う、と否定した。


「優希が引っ越してきたらあのベッドじゃ狭いし。もちろんクローゼットも足りないだろ?」


「オレが何処へ引っ越すって?」


周りに聞かれないように声を潜めているものの、どうしても声量は大きくなってしまう。

「俺のマンション。その方がいいだろ?大学近いし、賃貸マンションじゃないから家賃要らないし」


オレの隣でランプを見ながら、淡々と喋っている恭介にさらに呆れ、ため息をつく。


「気が早すぎる」

そう言うと、俺はそうしたい、と耳打ちされた。

確かに、今住んでいるアパートは狭い上にお世辞にも綺麗とは言えない。
満さんが勤めていた病院も近所にあるし、思い出したくないこともあの周辺にはある。

引っ越すには丁度いいかもしれない。

それに、恭介は記憶を無くしていたオレに恋人同士だったと話す機会もないまま、オレは満さんと付き合っていたのだから、もう一度恋人同士になった今、傍に置いておきたいんじゃないか。

もしオレが恭介の立場なら、離れていた時間を早く埋めたい。


「これなんかいいんじゃない?」

少し強引に考えを固めて、声を上ずらせながら店内に飾っていたベッドを指した。


「それなら今あるのと大して変わりないよ。今のがセミダブルだから、クイーンサイズくらいのがいい」


店内にはクイーンサイズのベッドがなく、カタログに載っているベッドを見ていた。


「これなんかどう?」


恭介は木製のいかにも輸入品って感じのするベッドを指す。いいベッドだけど、かなり高価なものだ。


「いいけど・・・予算は?」


大丈夫、と言って、そのページに指を挟んだまま、こんどはクローゼットのページを開く。


「同じ物のクローゼットとサイドテーブルがあるよ。いっそこれで統一しよう」


オレの意見もそこそこに、店員を呼びとめ、予約手続きをする。
会計は・・・クレジットらしい。
あまり恭介の家の事とか聞いたことないからどうしてそんなにお金持ってるのかわからないけど・・・


「お待たせ」


会計を済ませた恭介がうれしそうに戻ってきた。よっぽどオレが同居を認めたのがうれしいらしい。(恭介に言わせれば同棲らしい・・・)

その後は二人で新宿をブラブラ歩いて、映画館に入った。

記憶がなくなる前もこうやって一緒に買い物したり映画見たりしたんだろうか。

恭介が席に戻ってきたのも気づかず、ボーッとそんなことを考えていたら、上映開始のブザーが館内に響き、照明が落とされた。

映画は有名な役者が三人も出ていて、内容も興味深く、考えさせられるものだった。


大都会の豪邸に住み、高級車を乗り回し、容姿も抜群。
完璧な人生を謳歌する、青年実業家が主人公。
美しい恋人もいて、何不自由ないはずが、どこか物足りなさを感じていた。

そんなある日、主人公は親友の恋人に一目惚れしてしまう。   
しかし、主人公の心変わりを敏感に察した恋人は、嫉妬に駆られて自ら運転する車で主人公とともに崖に突っ込み、心中をはかる。

奇跡的に一命を取りとめた主人公だったが、その顔は怪我のために見るも無惨に変わり果ててしまい、自分に絶望する。  
そしてそれが合図かのように何もかもがうまくいかなくなる……。

 

途中から主人公の妄想と現実とが行ったり来たりで、よく見ていないと理解できなくなる。

ラブストーリーというよりはヒューマンドラマで、少しクリスマス向けではないかもしれないけど、いい映画だった。

映画館を出て、車に乗り込んだ。道路は渋滞し、なかなか進まない。