記憶

「タオル取ってくるな」

傍においていたバスローブを体にかけ、ベッドから下りようとする恭介の腕をだるくて掴んだ。


「もう少しだけ、いて」

今離すとどこかに消えていくんじゃないか、そんなバカな考えが脳裏を過ぎった。

「すぐ来るから。それに、早いうちに取らなきゃ、腹壊すだろ?」

そう言われて、オレは渋々手を離した。
恭介の言う事が尤もで、以前に何度も腹を下した事があるからだ。

軽く頭を撫でられ、ドアを開け放したまま、恭介は洗面所にタオルを取りに行った。

ベッドから見える窓に映っていたのは、雨ではなく雪だった。


「雨、雪に変わったんだ・・・」

「今日はずっと雪だよ。それにしても、クリスマスイブに雪が降るなんて珍しいな」

恭介は持ってきた厚いバスタオルを腰の下に敷き、窒内に指を入れ、白濁を流しだす。


「んっ・・・」

流れ出てくる精液に妙な感じがして、シーツを強く掴んで耐える。指が引き抜かれ、
「終わったよ」
と声をかけられた。

だるい体を起こし、ベッドに寄りかかってシャツだけを身につける。

「そういえばさっきクリスマスイブって言ったけど・・・今日何日?」
「十二月二十四日」
まだ十一月の終わりか十二月の初めと勘違いしていたオレはあまりの日付差に驚いた。

「・・・と、もうすぐ昼だな。もう少ししてから買い物に行こう」
サイドテーブルに置いていた古い皮製の時計を腕にはめ、時間を見る。

「シャワー貸して」

そこ、と突き当たりの部屋を指され、
「後でタオルもって行く」
と言われたのに曖昧な返事をして、ドアを閉めた。
 

シャワーのコックを捻ると、丁度いい温度のお湯が流れてくる。
鏡には上半身だけが映されていて、白い肌の胸元にくっきりと残っている傷跡と先ほどの情事の赤い痕が残されていた。


傷と痕を指先でなぞっていくと急に恥ずかしくなる。鏡を見ないように、ソープで体を洗い、全身に熱いお湯を浴びる。     
恭介とのSEXは満さんのときよりも気持ちよくて、なによりうれしかった。

さっきの行為を思い出す度に気恥ずかしくなるものの、自然と笑みが零れてくる。

「優希?」

白く曇った半透明の扉の向こうから恭介の声が聞こえた。
「何?」
「遅いから体しんどいのかなって思って」

心配性だなと思って、クスクスと思わず笑ってしまった。

「大丈夫だよ。今あがる所だったから」
シャワーのコックを閉め、ドアを開けると肩にバスタオルをかけられた。
恭介は既に着替えている。

「冷めないうちに服を着ろよ。病み上がりなんだから」
そう言い残して、後ろ手でドアを閉めていった恭介の顔はほんの少し紅かった気がした。 

恭介が置いていった服は三日前にオレが着ていたもので、綺麗に洗われていた。
それに着替えて、リビングに入ると、恭介は雑誌を見ながらパンを食べていた。

「食うか?」
クロワッサンを一個差し出され、素直にそれを受け取る。

「オレ昨日のおかゆ以外何も食べてないから腹減った・・・」

「後でレストラン連れて行くからそれくらいでやめとけ」

もう一つ食べようと手を伸ばしたオレの先からパンを片付けていく。

「オレ、パスタがいいな」
「了解」

車のキーと財布だけを持ち、ドアに寄りかかってオレが靴を履き終わるのを待っていた恭介が、ふいに手を握って、引き寄せた。

「人に見られるよ」

慌ててそう言っても、恭介は話してくれない。

「前はよく手つないで歩いてたのに」

「絶対ウソだ」

「本当だよ」

覚えていないオレをからかって、恭介は渋々、手を話し、運転席に乗り込んでエンジンをかけた。