記憶

「おはよう」

数時間後、オレが目を覚ますと恭介に真横から声をかけられた。


「オレが起きるの、待ってたの?」


起きた時に誰かが隣にいるというのは、今のオレが覚えている限りでは初めてだ。


「俺もさっき起きたばかりだよ。久しぶりに優希の寝顔見てた」


突然額にキスをされ、オレは驚きで目を見開いた。


「具合はどう?」


今度は真横からではなく、オレにおおいかぶさり、上から訪ねる。


「もう大丈夫」

「よかった」

安心したように微笑み、今度はオレの唇にそっと、触れるだけのキスをする。
少し触れただけだったのに、心地よくて何回もして欲しくなる。
一度離れたものの、今度は角度を変え、上唇を舐め、少し開いた口内へと舌を入れる。
歯列をなぞり、オレの舌を絡め取る。
舌先を軽く噛まれると甘い疼きが背中に走った。


「んっ・・・」

少し息苦しくなって、恭介の服を掴むとそれに気づいた恭介は名残惜しそうにお互いの舌を繋ぐ透明な糸を残して離れた。

「苦しかった?」
長い指先でオレの髪をすく。
「少しだけ・・・」
頬が火照って恥ずかしくなり、顔を反らしてしまった。
「続き、してもいい?」
オレは縦に首を振りそうになったが、慌てて横に振った。

「まだ駄目?」

耳元でささやかれて、体が微かに震える。
「体、見せたくないから・・・」

満さんと別れてまだ一週間も経っていないとか、そんなことはもうどうでもよかった。
ただ本能的に恭介としたかった。
でも、オレの体には人に見せれないような傷がたくさんある。
満さんは医者だから慣れているようだったけど・・・


「もしかして傷の事?」

恭介は少し残念そうに上からオレを見つめていた。
「何で・・・」

『何で知ってるの』とオレが言う前に恭介に遮られた。


「優希を着替えさせた時に見えたんだ」

オレを着替えさせてくれたのは恭介だ。
傷が見えたのは当たり前で、今更隠しようがなかった。

「俺は気にしないよ」

もう一度、優しく口付けられると、強張っていた体の力が抜けていった。
Tシャツの中に手が入ってきて、腹や脇腹を撫でられた後、手は胸に移動し、硬くなり始めた乳首を刺激する。

未だに口付けは続けられ、時節息をする為に開放された口からは吐息混じりに喘ぎ声が洩れる。
乳首を弄っていた手は下におりていき、ズボンを脱がせ下着の上からその形を確かめるかのように握られると、体がビクッと震えた。

下着の合わせ目から手を入れられ、勃ち上がった自身を緩く握り、上下に動かされる。
口が開放されたかと思うと、恭介は首周りの柔らかい肌を吸い、鬱血の痕を残した。

「こんな綺麗な肌に傷つけるなんてな」

腕や胸などに広がる幾つもの傷跡を舐めながら、自身に回された手は上下に強弱をつけて抜き、親指で先端を撫で回す。
「んっ・・・あっ・・」

先端の窪みを、短く整えられた親指の爪で弄られ、オレの欲望は完全に勃ち上がり、弄られている窪みからは蜜が溢れ、上下に動かされる度にクチュクチュと淫猥な音を立てている。
それはオレの聴覚をも犯し、羞恥心を煽っていた。


「優希、うつ伏せになって」

恥ずかしいながらも、言われたとおりうつ伏せになる。腰を掴まれ、高く持ち上げられた。

「荒れてる・・・乱暴にされたんだね」

蕾の周りの皮膚をなぞられ、羞恥に真っ赤になっているオレは枕に顔を埋めた。

「そのほうがいい?」

意外な恭介の言葉に、オレは嫌だ、と枕に顔を埋めたまま、首を横に振った。
「冗談だよ」

クスッと笑い声が聞こえたかと思うと、突然生暖かい物がオレのナカに入ってきた。

「やっ・・・!」

荒れている蕾の周りの皮膚とナカの肉襞を舐められる。初めてナカを舐められ、挿れられるのとはまた別な快感に、オレは戸惑った。


「はあっ・・・んっ・・・」

必死に声を押し殺しているものの、背中から伝わってくる刺激に、声が洩れてしまう。

「声出しても大丈夫。むしろ聞きたい」

蕾から舌が離れ、耳元で吐息のような低い声で囁かれると、体が麻痺したように動かなくなる。
耳朶を舐められ、右手で太股をさすり、双丘を撫で回していたかと思うと、ゆっくりと指がナカに入ってきた。

「んっ…!あっ…」
もう少しで前立腺に届きそうなのに届かないもどかしさに、オレは自ら腰を揺すっていた。
次第に指の本数は増え、蕾を広げるように掻き回す。


「今三本入っているのがわかる?」
指をバラバラに動かし、内襞を広げ、指を入れたまま蕾のナカを舐められる。
「やっ・・・はぁっ・・・」

腕で顔を隠し、快感と羞恥に耐える。
気持ちよすぎて、もう何も考えられなかった。
指を動かされる度に湿った音が部屋に響く。


「ひぁっ・・・!」

今まで蕾を掻きまわしていた指がゆっくりと引き抜かれ、オレは恭介と向かい合うように仰向けにされた。

「優希、今ならまだ止められよ」

オレを組み敷いたまま、優しく話しかけられる。
「・・・止めないで」
恭介の首に手を回し、自分の方へ引き寄せる。
「んっ・・・」
恭介の猛々しく勃起したモノが蕾の入り口をさすり、ゆっくりと入ってきた。
「あっ・・・んっ・・・!」
指とは全く違う質量の圧迫感に、絶えていると、今まであまり触れてもらえなかった自身をゆっくりと抜かれる。
「恭・・介・・っ!」
恭介にしがみ付き、前からくる快感と、後ろの圧迫感に体を震わせていると、グイッと急に奥まで突き入れられ、オレは悲鳴に近い声を上げた。

「大丈夫?」

涙を目に溜めながら頷くと、その涙を親指で拭われ、少しだけ視界がはっきりとした。

「動くよ」

腰の浮いた部分に枕を入れ、小刻みに腰を動かし、蜜が流れっぱなしの自身を抜く。
徐々に深く奥を突かれ、オレは喘ぐ事しかできなかった。


「やっ・・あ・・・ん・・・ああっ・・・!」

次第に恭介の体も汗ばんできて、時々吐息が聞こえる。
「優希っ・・・」

何度キスを強請っても恭介は必ず答えてくれた。
恭介と付き合っていた事を思い出して、まだ2日も経っていないのに、とても愛しい。
埋め切れなかった隙間が、冷たい体にお湯を注がれるかのように、温かく満たされていく。


「ッん・・・・あぁっ・・はっ・・んぁ・・・あぁぁっ!」

ビクビク体を震わせ、オレは吐精してしまった。
その時に無意識に秘部を収縮させた為に、恭介の欲望をきつく締め付けていた。

「っ・・・!」

恭介は低く呻き、オレの窒内で絶頂を迎えた。
そのまま、すぐにペニスを抜かれ、その喪失感に体が震えた。


「タオル取ってくるな」

傍においていたバスローブを体にかけ、ベッドから下りようとする恭介の腕をだるくて掴んだ。
「もう少しだけ、いて」
今離すとどこかに消えていくんじゃないか、そんなバカな考えが脳裏を過ぎった。