記憶
遠くにテレビか何かの音が聞こえて目を覚ました。
部屋は薄暗くてオレはソファー寝かされていた。ゆっくり体を起こし、部屋を見渡すと、ここはホテルでなく恭介のマンションだった。
ただ、隣に恭介はいない。
この無駄に広い部屋のどこに恭介がいるのか、探したいけど体が言うこと利かなくて断念し、つけっぱなしのテレビを見ることにした。
丁度ニュースが入っていて、事故現場の中継を放送している。
「起きたか?」
薄暗い部屋でテレビを眺めること約十分。
恭介が戻ってきた。
「まだ起きないようだったからビデオ探してきた」
渡されたのは一枚のDVD。。
「これっ・・・オレ十件近く店回ったのに・・・」
見たがっていた映画と言われてピンとこなかったものの、タイトルを見た瞬間に思い出した。
「親父の家にあったんだ」
DVDをセットすると、すぐに本編が始まった。
主人公はある一人の婦人。
主人公の夫は破産直前まで追い込まれていた。彼は主人公の財産を狙って彼女の殺害を計画する。
彼は彼女の浮気を知り彼女の愛人に金で殺人を依頼する。
夫は自分の留守中に愛人を自宅に忍び込ませ、主人公を殺害させようとしていた。
計画は実行に移されたものの、主人公は家に押し入った男を逆に殺してしまう。
しかしその男は愛人ではなかった。
騙された夫は憤慨し愛人捜しを始める……。
前に古い方を見て、リメイク版もみたいと思っていたものの、なかなか機会がない上に、かなり探し回ったが手に入らなかったのだ。
オレは喜びで我を忘れ、恭介の腕に抱きついたまま、映画に見入っていた。
映画が進んで、ラブシーンの少し前に、恭介はキッチンに食べ物を取りに行った。
今頃抱きついていたことに気づいたオレは薄暗い中でよかった、と安心した。明るかったら、顔が真っ赤になっているのを見られたと思うから。
五分程で戻った恭介の手にはローストチキンとビールの入ったグラス。
チキンは食べやすいようにほぐしてあった。
グラスを倒れないように平らな床に、チキンの皿は二人の間に置いた。
「クリスマスだから一応買っておいたんだ」
取り分けられた小皿を渡されて、オレは感激していた。
クリスマスにチキンなんて食べたこともなったから。
もちろんバイトなしのイベント行事も今回が初めてだ。
「優希」
恭介を見ると、こっち、と手招きしていた。
傍に体を寄せると、足の間に座らせられた。
背の高い恭介からみたら、オレは二回りほど小さくて、足の間でもすっぽりと納まってしまう。
少し癪だけど仕方がない。
映画も終わりかけてきて、皿の上にあったチキンも、ビールもとっくになくなっていた。
でも二人とも物を取りに行くのさえ面倒なほど、映画に集中していた。
オレも恭介も映画好きだから途中で立つということは家で見ていてもあまりしないのだ。
ラストシーンを終え、特典映像まで見終わると、フッと画面が消えた。
「おもしろかったね」
一時間以上体制を変えずにいた恭介は大きく背伸びをしてオレの肩に顎を乗せる。
「リメイク版の方が面白かったな。現実味があって」
同意するように二回ほど頷いて、オレは皿を片付けに立ったが、恭介に腕を引っ張られてまた元の体制に戻ってしまった。
「どうしたの?」
意外に恭介は甘えたがりで今日は尚更、甘えてくる気がする。
オレとしてはうれしいしけど、外見からして、そんな風には絶対に見えない。
恭介がオレが沈んでいるときにどうやったら浮上するかを知っているように、オレもこういうときはどうしたらいいか、わかっている。
これだけは、最初に恭介に抱かれたときに思い出したのだ。
でもこれをオレからやると、今なら合図になってしまうから場所と周囲を確認してからでなければ出来ない。
あとはそのときのオレの気分次第だ。
「!!」
そっと唇を離して恭介の顔を覗き込むと、案の定、驚いた表情をしていた。
「・・・そんなに驚かなくてもいいんじゃない?」
「いや・・・だって優希からするのは初めてだから・・・」
普段は焦ったりとかしないのに、少しオレが積極的になると狼狽える。
「今日は・・・クリスマスだから。なにも準備してなかったから代わり」
「十分すぎるよ」
不意に引き寄せられ、荒々しいけど優しい口付けを交わした。
そのあとは獣のようにお互いを求め合って、行為は朝日が昇るまで続けられた。
貪りあううちに意識を失うようにして眠りについたオレ達が目覚めたのは、翌日の昼をもとっくに過ぎた頃だった。
その日、オレは立つことも出来ず、一日中真新しいベッドの上でのんびりと過ごしたのだ。