記憶

<ユウキ視点>

オレが目を覚ますと、めずらしく恭介はまだ眠っていた。起こさないようにそっとオレの体を抱きしめている腕をすり抜け、リビングの冷蔵庫からウーロン茶を取り出した。
室内にある時計はもう九時を過ぎていて、昨夜までソファーに置かれていた悠真さんたちのコートはなく、もう出かけたのだろう。

冷たい缶を持ったままバスルームへ行き、浴槽へ湯を張る。
蛇口から勢いよく流れ出てくるお湯を眠気眼で見ていたために、気づいたときには湯が溢れ始めていた。
バスローブを備え付けのフックにかけて、透明な湯に紫色の入浴剤を落としていく。
これも昨日の入浴剤と同じように表面が破れると液体が流れ出て、ラベンダーの香りが浴室内を覆った。

目を閉じて広い浴槽に一人で漬かっているとオレを呼ぶ声とともに恭介が顔をのぞかせた。

「二度寝したらこんな時間だったよ」

苦笑いしながらその場でバスローブを脱ぎ捨てる。
恭介が胸元まで漬かると、お湯が浴槽から溢れ、床暖房付のタイルに派手な音を立てて流れた。


「オレもさっき起きたばかりでさ。眠気覚ましに風呂でも入ろうかなって思って」


湯の中で思い切り前に伸びをするとコキッと歯切れのいい音を立てて肩の関節が鳴った。


「今日はどうしようか?」


オレは悩んだように小さく唸った。


「チェックアウトしたら買い物でも行く?」


目ぼしい物は買ってしまった(買ってもらった)オレはもう買う予定の物もなかった。


「特にない・・・」

「なら、家に戻って映画でも見ようか。ベッドももう入っていると思うよ」

管理人さんに頼んだらしく、今までのベッドは処分してしまったそうだ。
手回しがいいというか、うれしそうに準備を進めている恭介がかわいく思えてしまう。


「確か優希が前に見たいって言ってた映画があったはずだから」


オレの頭の中で『?』が二、三個浮かんだ。
見たかった映画は特に今はなかった筈だから。


「あー・・・ごめん。覚えてないか。3ヶ月前だからな、言ってたの」


三ヶ月前はオレが記憶を失う前だ。
そんなに前の事を覚えていた恭介に感謝したのと同時に、記憶をなくしてしまった自分自身を恨めしく思った。

忘れるなら恭介と過ごした記憶よりも、満さんの事を忘れてしまいたかった。
まだ気持ちが残っているとかではなくて、少し思い出しただけで恭介に体を許してしまったオレを軽い男だと見てほしくなかったから。


「恭介・・・」


俯いているオレに顔を向けたかと思うと、突然恭介の膝の上に乗せられた。


「頼むからもうそんな落ち込まないでくれ。覚えていないのも、満さんとの事も、元はと言えば俺が悪いようなものなんだから」


な?と問いかけられ、オレは頷くことしかできなかった。恭介は勘がよすぎていつでもオレの考えていることを当ててしまう。
オレの心を見透かしているんじゃないかと思うくらいに。

「優希」
頷いたまま、また俯いてしまったオレの顔を上げさせ、そっと唇を重ね合わせた。
一旦気分を沈ませたオレをどうやったら浮上させるかは、恭介だけが知っていた。


「もっと・・・恭介の事思い出させて」


さっきのキスで少し気分がよくなったオレは恭介を上目遣いで見ながら誘った。
恭介は口端を少し上げて笑みを浮かべると、親指の腹で唇をなぞり、唇を重ねた。
敏感な箇所の一つでもある上唇を舐め、開いた口から舌を侵入させる。
舌を絡め取られて、外へ引きずり出され、空中で絡めあう。
それだけで、オレ自身は勃ってしまった。

恭介の舌が喉に下りてきて、首下に新しい跡をいくつもつけられる。

「あっ・・・」


腰を支えていた片手を離し、太ももをさすり、腰に巻いていたタオルの上から自身の先端を弄られ、同時に乳首も舐られる。
胸元の恭介の頭を囲んで恭介が与えてくれるもどかしい感覚に腰が自然に揺れる。。


「んんっ・・・・!」


湯から先端を除かせている自身を弄る卑猥な音が浴室の湿った空気で反響し、いつもよりリアルに聞こえた。


「熱・・い・・・」

支えている手で双丘を揉まれ、下半身の奥が早くいじって欲しくて燃えるように熱くなる。

「上せた?」

そう言いながらも、双丘を揉んでいた指は蕾を押し分けてナカへ入ってきた。


「違っ・・・もう・・・挿れ・・・っ」


対面座位になっている為かまだ二本しか入っていないのに、指は奥を擦りあげてくる。
でも、まだ足りなかった。


「まだあまり慣らしてないから駄目」


オレを焦らしているのか、蕾はもう三本をくわえ込んでいるのに、ペニスの先端と蕾の入り口ばかりを弄ってなかなかオレの欲しいところには触れてくれない。


「壁に寄りかかって」


膝の上から浴槽の淵に座らせられた。
指が抜かれたた蕾は、うずいて仕方がない。
半分泣きながら、恭介が何をするのかと見下ろすと、ペニスの根元を手で締め付けたままそれを口に含んだ。


「やあっ・・・!んっ・・・」


反響する声を聞くのが恥ずかしくて、口元に手を当てて必死で抑える。
舌で先端の窪みを押され、あふれ出てくる蜜をなめ取られる。
舌のザラザラした感覚に犯されて、さらに疼く奥に、M字に曲げられた足を閉じたりもしたが、結局疼きは止まらない。
先端から溢れ出る蜜と唾液が、根元を伝って後ろまで垂れていく。


「はぁっ・・・!手・・っ・・離し・・て・・」

時節、下半身が波立つのを感じるが、根元をきつく縛られている所為でイくことができない。
オレはもう限界で、後ろも弄って欲しいけど、先にイきたくて仕方がなかった。
恭介はまだ2回目なのにオレが感じるところを知り尽くしている。
そこばかり刺激するから、必死で抑えていた声も上げられずにいられなくなってしまう。


「イきたい?」


意地悪く聞いてくる恭介をもう睨めるだけの余裕もなくなったオレは素直に頷いた。
すると、根元を締め付けていた手を離し、さらに感じるところばかり刺激され、オレはあっさりと射精してしまった。


「んっ・・・」


浅い淵に腰掛けていたオレの体は脱力し、浴槽に滑り落ちるところを恭介に支えられた。


「ああっ・・・!」


射精後の余韻を味わう間もなく、壁に手をつく体制にされると、物足りなさそうに収縮を繰り返していた蕾に恭介の威きり勃った肉棒を挿れられ、オレは激しく背中を仰け反らせた。
この挿入されるときの感覚は未だになれないものの、痛みよりも快感のほうがじわじわと奥からこみ上げてくる。


「まだ半分も入ってないよ」


挿入されただけで大きく仰け反らせたオレにクスッと笑って、残りを一気に挿入された。


「ひっ・・・あっあッ!」


ズンッと奥を突き上げられ、射精したにもかかわらずオレの欲望は小さく震えながら頭をもたげはじめていた。


「まだっ・・動かないでっ・・・」

恭介はそれを無視し、小刻みに震えている体に密着させ、小刻みに腰をゆすり始める
。前に回された濡れた手で胸の突起を摘まれると下肢が揺らいだ。


「はぁっ・・・ああ・・んっ・・・」


いつもと違う体制に戸惑いながら腰を揺すぶられると、鈍い水音が耳を塞ぎたくなるほどリアルに耳まで届く。


「もっと・・・っ」


小さく呟くと、急に視界が下がり、最奥まで突かれた。恭介が何も言わずに、浴槽の淵に腰掛けたのだ。


「自分で動いて」


耳元で低く囁かれて、ゾクッと快感が競りあがってくる。もう羞恥も感じないほどにオレは性欲に狂っていた。


「んん……ふ……は……ん……」


ゆっくりと腰を動かし始めるが、だんだんそれでは足りなくなってくる。
恭介は親指の腹で乳首を何度も擦り、激しく動かしたくても腰に力が入らなくなっていた。


「恭・・・介・・・っ!」
「何?」
「焦らさ・・・ないでっ・・・!」

仕方ないな、と呟いて浴槽の淵に手を掴らせると、ギリギリまで腰を引き、一気に奥へ突き入れた。


「あっ!あぁ……っ!」


内股が痙攣し、何度かそれを繰り返されただけでオレ達は同時に絶頂に達してしまった。