第一章  波乱の幕開け

カーテンの隙間から差し込む、僅かな光に気がついた佐伯周助(さえきしゅうすけ)は、眩しそうに目を細めながら狭い一人用のベッドから起き上がった。

 

まだぼんやりとした意識の中で枕元の時計に目をやると、時刻は朝六時。


そろそろ起きなければ結婚したばかりの母、佐伯洋子(さえきようこ)が、朝食を作り終えて起こしにくるだろう。

 

そして自分も、学校に行かなければと、腕に頭を乗せて、まだ寝息を立てている相手からそっと腕を抜き、自分の部屋へ戻ろうとしてその足を止めた。

 

自分は一昨日で高校生活を終え、洋子達は少し遅い新婚旅行へ出かけた事を思い出したのだ。

 

そんな好都合な事を寝ぼけていたとはいえ、すっかり忘れていた自分に苦笑いをし、周助はもう一度ベッドへ潜り込んだ。      

 

しかし、長年の習慣というのは中々抜けないもので、一度目が覚めてしまうと寝付けなくなってしまう周助は、腕の中にいる義弟で恋人の佐伯真佐海(さえきまさみ)の柔らかい髪を何度も鋤いていた。

 

昨日から四泊五日の短い新婚旅行へと出かけた洋子は、周助の耳にタコができるのではないかというほど、食事や戸締りの注意をして行った。

もうすぐ大学生になる息子にそこまで言わなくても、と周助は思ったが、自分一人ではない、真佐海がいるのだからと自分に言い聞かせ、不平を言わずにおとなしく聞いていた。

 

しかし、洋子が心配していたほど食事や戸締りの心配はいらなかった。

 

母を幼い頃に亡くし、父、佐伯武(さえきいさむ)と二人きりで暮らしていた頃に習得したという料理を真佐海が数品作ってくれ、二人でそれを食べたのだ。


戸締りも、真佐海がきちんと確認してくれた。

 
今まで感じられなかった意外な真佐海の一面に、周助はつくづく、もし真佐海が女性だったらすぐに結婚しているだろうと、思わずにいられなかった。


その後、周助は真佐海を抱いた。

 

付き合い始めた頃――つまり二ヶ月前以来だったせいか、真佐海の体は緊張と恐怖で硬直し、中々周助を受け入れなかった。
それを周助は丁寧に解し、真佐海を快楽へと溺れさせていった。

 
一度快楽に溺れさせれば、後は真佐海の理性は無いに等しい。



おそらく無意識にしているのだろうが、体を預けてくる真佐海に、それだけ自分を好いてくれているのかという自惚を抱いてしまい、周助は自然に笑みがこぼれるのを抑える事ができなかった。