冬の空は四六時中灰色に染まり、冷たい風ばかりを吹き荒らしている。

　街はクリスマスのイルミテーションに包まれ、華々しく彩っていた。今年最後の一大イベントを控えているせいか、心なしか普段より人も多く、また一人で歩いている人も少ない。

　俺もまた例外でなく、仕事が終わると直に車に乗り込み、付き合い始めてもうすぐ一年になる理絵の元へと急いでいた。

しかし、毎年この時期は雪とクリスマスというイベントのせいでいつにも増して渋滞が酷い。俺は眠くならないように強いミントガムを噛み、ラジオのボリュームを上げた。

　ニュースを聞き流しながら進まない車に苛々していると、助手席にコートと一緒に無造作に置かれた中から着信音が鳴った。

　通話ボタンを押し、無愛想に声をかけると、理絵の躊躇いがちな声が流れた。時々何かを喋ろうとして唐突に言葉を切る理絵に苛立ちながら、俺は今日の約束が駄目になったのだろうと、半ば諦めながらも支離滅裂な言葉に耳を傾けていた。

「別れてほしいの」

「･･････何だって？」

「雅紀は･･････仕事ばかりであんまり会ってくれないし･･････私の事を一番に考えてくれる人ができたから、別れて欲しいの」

　仕事を優先させなければ生活できないだろうと思っていると、どうやらそれは口に出てしまったらしい。

「･････そういう人よね。さようなら」

理絵はそう言うと、電話を切ってしまった。俺は通話の切れた携帯を助手席に放り投げると、この渋滞の中、二時間近くもこの女のために車を走らせていたのかと思うと馬鹿らしくなった。

　どうせ電話の向こうでは、特に何も問い詰めなかった俺に安堵し、これからその『私の事を一番に考えてくれる人』とやらと会うために俺が買ってやった高いブランド品で着飾るのだろう。もしかしたら他の男からも同じように貰っているのかもしれない。

　俺は盛大にため息をつき、いつの間にか近づいていた待ち合わせだった場所の前を通り過ぎた。

　このままどこかで夕食になるような物を買ってここからさらに一時間ほどかかる――いや、渋滞で優に二時間はかかるだろう――マンションで一人過ごそうかと思ったが、創造しただけでむなしくなり、丁度目に入った映画館へ車を停めた。