広いベッドにオレを寝かして、半分寝かけていると、
「なぁ樹、お前ここに住まないか?」

「え・・・?」

突然そう言われて、オレは間抜けというか、上ずったような声をだしてしまった。

「その・・・、こんな仕事をしていて女房に逃げられてから、ここは一人で住むのに広すぎるし・・・なにより・・・」 「なにより?」
「お前を好きになったから、一緒にいて欲しいんだ・・・」
あまりの驚きに呆然としてしまった。

「あの・・・えっと・・・本当ならもう少し付き合ってからにしましょうって言いたいんですけど・・・実は家賃滞納しすぎて今月中に出て行けって言われてるんです・・・厄介になってもいいですか?」

「よかった・・・もしOKしてもらえなかったらどうしようかと思ったよ」
今日は驚くことばかりだ。まさか尚吾さんがこんな弱音を言うとは考えてもいなかった。
「ところで、オレのこといつから好きだったんですか?」
「君が・・・初めて店に来たときだよ。可愛い子だなーって思い始めて、次に来た時に声かけたんだ」
そう。最初に声をかけたのは尚吾さんだ。

このビデオがおすすめだって言われて出してきたのは普通の洋画。確かにおもしろくて、最高だった。前から気になっていた曲もこの映画で使われてたからサントラに入ってたし。
確か・・・それからだ。オレが尚吾さんを意識し始めて、店に行くたびに世間話したりしたのは。

「オレもだいだい同じ頃ですよ。尚吾さんを好きになったの・・・」
オレは言い終わると恥ずかしくなって、尚吾さんに顔が見えないように反対を向いた。

「実はあの広告もわざと君のところだけに入れたんだ。もしかしたら電話来るかもしれないって思ってさ。それで俺が開発してる製品を試したいとか口実作ったんだ。騙してごめん」

オレはいきなり向きを変え、尚吾さんにキスをした。

「もういいよ。オレ最初っから尚吾さんに騙されたとか思ってないし。でも、オレがゲイだって、なんで知ってたんですか?」

「初めて店に来た時、映画に混じってゲイビデオ借りてたから」

そう言うと、尚吾さんはクスッと笑い、俺を抱きしめる。

「これからよろしくな」
「でも、もうバイブはイヤだよ」
 
数日後、オレはアパートを引き払い、尚吾さんの部屋へ引っ越した。

妙な出会いから始まった恋だけど、こんな恋もありなのかもしれない。

                 
end

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