バイト
そんなものはあるはずもなかったが、どちらかの条件(主に前者)に当てはまるバイトを探していた。
「ん・・・?」
束になった広告を捨てようとした途端、一枚の広告を見つけた。
「四日で三十万・・・期限は明日までか」
広告内容をすべて読み終えずに俺はメモ用紙にバイト先の住所と電話番号を写すと、アパートを出た。
「ここだ・・・」
メモ用紙に記した住所を取り掛かった人に聞き、やっと着いた場所はアパートから二駅離れた高級住宅街のマンション。
電車に乗る前に、バイト先へ電話し、面接まで扱ぎ付けた。期限は明日までなのに、バイト希望者はオレだけみたいで、すぐに来てくれと言われた。
「402号室・・・」
オートロック式のマンションのインターホンを鳴らして名前を告げると、お待ちしておりました、と低いテノールの声が聞こえた。
低い声が好きなオレはどんな人なのか早く見たくて、エレベーターを待っていられずに階段を駆け上がった。
四階にあるその部屋に着いたときにはもう息切れをしていて、日ごろの運動不足が思い知らされた。
少し息を整えてからインターホンを鳴らすと、すぐに男がドアを開けた。しかし、そこにいたのはいつも利用している、レンタルビデオ屋の店員だった。
「尚吾さん!?」
オレは驚きで声が上ずっていた。
「樹君!?電話じゃ全く解らなかったよ。名前は同じだけど、苗字は知らなかったから。さ、入って」
部屋はリビングはキッチンと繋がっていて、カウンターと大きなテレビ。各種機械製品に革張りの黒いソファー。たった二週間のバイトに三十万も出すという広告通り、この男は大そう金持ちなのだろう。
「楽にしてくれて構わないよ」
尚吾さんはオレの前にお茶を置き、座るように促した。
「改めて、俺は二之宮尚吾だ。二十八歳。ここで色々な製品の開発をしている。ビデオ屋は趣味で経営してるんだ」
「オレは椎名樹十九歳です。普通の大学生ッス」
尚吾さんには前から少し好意を抱いていた。
背が高くて、体格もよし。モロオレ好みで・・・滅多にこんな条件のそろった男はいない。
でも、こんな所で本当に真面目にバイトできるのかと一瞬思ってしまった。
もちろん、金がないから真面目にやって稼がなきゃならないんだけど。
「仕事の内容は大体把握していると思うが、とりあえず説明させてもらうよ」
内容すら見ないで金に釣られて来ただけのオレには大変ありがたい事だった。尚吾さんは何か紙袋を持ってくると、ソファーの下に置いた。
「先ほど俺が言ったように、ここでバイブやローションの開発している。それの実験を行いたいんだ。どれも安全なものばかりだから樹君の体を傷つけるようなことはしない。ただどの様な効き目がでるか・・・それを試したいんだ」
さっき持ってきた紙袋から、二つ三つバイブやローションを出し、テーブルに並べた。
「でも・・・それって女の方がいいんじゃないんですか?」
オレは少し眉にしわを寄せた。バイブやローションを使うなら女の方がいいはずだ。
「これ等は女性の為のものじゃない。俺が開発しているのは男性用だからな。どうだ?」
オレはなんの迷いもなく、
「やります」
そう言った。