夜も更け、もう数時間で日が昇る頃、真佐海はふと目を覚ました。
すぐにまた眠気が来るだろうと、カーテンの隙間から見える暗く、重い冬空を見ていると、真佐海はふいに昔の事を思い出して、突然空虚感に襲われた。
もう十年以上前になるのに、周助と別れてしまってから、その記憶を思い出にするまでの長い年月、独りで過ごした夜を忘れられない。
眠気はもうとっくに覚めてしまっていた。
諦めた真佐海は、体を起こしてベッドヘッドに寄りかかり、隣で寝息を立てる統馬の髪に触れた。
もう一緒に暮らして一年が経つというのに、自分に、未だに自信が持てない。
一緒に街を歩いていて、寄り添って歩く恋人たちを見かける度に統馬も普通に女性と恋をして、結婚して、子供を持つ筈だったのにと思うと、申し訳なくなる。
独りの夜も辛かったけど、本当は時々襲われる罪悪感の方が辛かった。
けれども、統馬がいなくなった時の事を考える事も辛い。
真佐海は、一年経っても全く成長していない自分に深くため息をついた。
統馬は真佐海を絶対に離さないと何度も言った。
好きだと、何度も真佐海が信じるまで言った。
もう真佐海は統馬がいなければ生きていけない。
この世に命はあっても、真佐海の心は死んでしまうだろう。
そうなることが今一番怖かった。
「…どうした?」
ぼんやりと窓を見ていた真佐海にふいに声がかかった。
「ごめん、起こしちゃった?」
「隣にいなかったから」
ベッドに潜り込んだ真佐海を引き寄せ、冷えた体を統馬は抱きしめた。
「嫌な夢でも見た?」
「目が覚めて、中々寝られなかったんだ。…夜は駄目だね。思考がネガティブになって」
「眠れそう?」
「うん。起こしてごめん」
真佐海は統馬に寄り添うと、目を閉じた。
回された統馬の腕が心地よくて真佐海は今までの考えを全て捨てた。
今悩んでも仕方がない。
昔のことを思い出して辛くなるときもあるけれど、それはどうしようもないことだ。
けれど、未来のことを後ろ向きに考えることだけは極力減らそう。
今、この腕の中にいる事が、こんなにも今は幸せなのだから・・・